雨の歌
ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト長調op.78『雨の歌』ブラームスにはメロディがないと誰かが言ってたけれど、彼にも歌があり、晩年の内省に沈まぬ涼やかな一刻がある。ただどこまでも彼の緻密な構築はついて回る。心から解放されることのないロマンティシズム。第1楽章 ヴィヴァーチェ・マ・ノン・トロッポしのつく氷雨。暖かな暖炉に朱色の炎が煌めき、照り返す部屋の仄暗い中に青白く澄んだ窓際に立ち、無数の水滴が流れ落ちながら一瞬凍りつき、部屋の暖かさが伝わる薄いガラスを隔てて、再び氷雨は水に帰る。過度に思い入れのないヴァイオリンは細く歌を紡いでゆき、ピアノはやがて射し込んでくる夕暮れの雨後の浅黄色の光りのようにその楽章を締めくくる。第2楽章 アダージオ薄いガラスから射し込む光は、乾いた無数の塵が映し出す帯のような数条を描きながらやがて小さい部屋を満たしてゆく。懐かしい歌は繰り返され、強く、弱く、微妙にニュアンスを変えながら、ヴァイオリンにピアノにとその音色を移しながら、幾度となく思い出のように繰り返されて閉じてゆく。印象的なピアノの紡ぐ厚く暖かい低音の上をヴィブラートのきいたヴァイオリンが滑るように流れてゆく。第3楽章 アレグロ・モルト・モデラートクラウス・グロートの詩に作曲されたブラームス自身のリート歌曲『雨の歌』は多分クララ・シューマンのためにこの楽章に顕れる。この曲にもやはり、ブラームスの叶わぬ想いが織り込まれている。個人的な愛の歌。それ故、この楽章は優しく、子供の頃の雨に寄せる思い出がピアノパートに密やかに流れ、穏やかな憧れのままこの作品は閉じてゆく。『雨』のシーズンですが、この曲には日本風のうっとおしく締めっぽく蒸し暑い『梅雨』のような雨は似合わない。演奏はCDの展示と同じクレーメルのヴァイオリンとアファナシェフのピアノ。この曲を『ピアノが絡んだブラームス』に挙げたのはもちろんこの曲が決してヴァイオリンだけのために書かれたものではないからです。初演はヨアヒムのヴァイオリンとブラームスのピアノによって行われています。息子の喪に服していたクララ・シューマンが本来ならば弾くべきピアノだったのかもしれません。彼女のお気に入りの曲だったようです。この曲は『雨の歌』という副題がついていますが上記のように、第3楽章の主題がブラームスのリートから引用されているからで、ブラームスがつけたわけではない。でも何となくテーマに引っ張られますね。どっちかと言うと『雨の日の恋歌』と呼びたい感じがします。ややこしい男ですね。ブラームスは。このCDはブラームスの3曲のヴァイオリン・ソナタだけではなく、ブゾーニの第2番が入っています。これが実にいい。https://muuseo.com/Mineosaurus/items/526?theme_id=43332 ブラームス/3つのヴァイオリンソナタ ブゾーニ/ヴァイオリンソナタ第2番 | MUUSEO (ミューゼオ) https://muuseo.com/Mineosaurus/items/526?theme_id=43332 Mineosaurus